口下手と努力

 戦国時代の安芸郡山合戦は当時、大内氏配下だった毛利元就が少数の兵で尼子氏の大軍を退けた戦いとして知られるが、尼子氏の狙いは元就ではなく大内氏の軍勢をたたくことだったらしい。鳥取市でのフォーラムで研究者の新説に元就の世渡り上手を感じた▼元就がこもった郡山城(広島県安芸高田市)周辺の遺構調査を交えて分析すると、尼子氏は城を囲んでおらず、駆け付けた大内方の援軍と戦い、兵力は大差なかったと考えられるという。寡兵で大軍を退けた話は元就が武功を誇る手紙が出どころ。実際は静観していただけのようだ▼口の立つ人間がチャンスと評価を得てすいすいと芽を伸ばす。戦国時代も現代も変わらない。口下手な人間は倍くらい努力しないと人の目に留まらない▼スポ根漫画の名作「巨人の星」の地味な脇役・左門豊作は「大勢にたたえられた桜も、山奥でひっそりと咲いた桜も美しさは変わらない」と言う。知られずとも努力は尊いとの名言は励みになる▼人気F1ドライバー、ジル・ビルヌーブは遅咲きでマシンに恵まれず、出走67回で優勝6回と成績はさほどでもない。逆境でも勝利を諦めない挑戦的な走りでファンを魅了。誠実な努力家だった。信頼するチームメートに出し抜かれて優勝を奪われ、失意のうち1982年に事故死したのは悲しいが「記録より記憶に残るドライバー」の生きざまに勇気づけられる。(志)

2019年9月10日 無断転載禁止