懐に痛い味

 この時季、本コラムで筆者がよく引用している映画のタイトルが「秋刀魚(さんま)の味」。日本映画界の巨匠、小津安二郎監督の遺作となった作品だが、題名を想像しながら映画を見ると見事に裏切られる。最後まで秋刀魚のさの字も登場しないまましんみり終わる。その味な題名に惹かれながら、拙文と付き合ってもらっている▼旬を迎えている今年のサンマは「少小高遠」のキーワードが一段と際立つ。漁獲量が少なくサイズも小ぶりで、値段は高い。かつては日帰りできた漁場も沿岸から遠くなり、秋を代表する庶民の味も食卓から遠ざかる傾向が加速している▼サンマ不漁の原因は、いろいろ絡み合っているらしい。好漁場となっている北海道から三陸沖にかけての海水温が上昇しているため、高温を嫌うサンマ群が離れているという自然原因説▼これに大型船を公海まで繰り出す台湾や中国が日本漁船より先取りしているあおりを受けている人為説も加わる。日本がこれまで取り過ぎたとの見方も根強い▼気になって松江市内のスーパーに聞いてみた。「今年のサンマは痩せている。値段も昨年は1匹百数十円だったのが今年は200円以上。遠くなった漁場から持ち帰るため鮮度も気掛かり」。手が届きにくくなった生サンマの代役が冷凍の塩サンマ。サンマ苦いか、しょっぱいか。ほろ苦い人生の味を重ねた巨匠の「秋刀魚の味」が懐に痛い。(前)

2019年10月5日 無断転載禁止