やり場のない怒り

 東京で政治担当になり、最初に壁にぶち当たったのが取材相手との関係づくりだった。「懐に入り込む」のは口で言うほど簡単ではない。巧みな話術を持ち合わせているわけでもない。地道に通い、顔を覚えられ、時間をかけて徐々に情報を引き出す段に至る▼政治家や官僚にいろんなタイプがいるように、記者たちの懐への入り方もさまざま。情報を集めるため日々動き回り、人に会って話を聞く。新聞、テレビ、ネット。届けば同じ「ニュース」だが、取材過程にテクニックなり試行錯誤がある▼ただ、相手は友達でも仲間でもない。決して越えない「一線」を双方が引かねばならない。それを越えたのが大手新聞社の記者と元記者、東京高検の黒川弘務検事長だ▼「ネタ元」としての関係性だったかは分からない。ただ、コロナ禍で外出自粛要請のさなかに集まり賭けマージャン。渦中にある検察官の定年延長法案が先送りになった直後、週刊誌報道を受け黒川氏は辞表を提出した▼スクープを狙うのも記者の役目。相手への食い込み具合が左右する面は確かにある。しかし情報は正しいプロセスを経るからこそ信頼を得る。会員制交流サイト(SNS)に「マスゴミ」という言葉が飛び交う。真偽ない交ぜの情報が拡散するデジタル社会では「届ける側」にこれまで以上に厳しい目が向く。それを踏みにじる愚行に、やり場のない怒りが込み上げる。(築)

2020年5月22日 無断転載禁止